ムール貝とイタリア料理 ~数えきれない多様なレシピ~

  • LINEで送る
ムール貝とイタリア料理

ここのところ天気はどんより。

にもかかわらず、じっとりとにじんでくる汗に不快指数はマックス。

おまけに、上司にちくり、と言われたりした日には、もう、なんか嫌なことばっか。

こうなったら、うっとうしい気分をふっとばしてくれる食事が必要。

例えば、日が沈んできた夕方のテラスで、きんきんに冷えた白ワインに、新鮮なムール貝。

ムール貝はどうやって食べる?

ああ、そうか。イタリアではムール貝ってどうやって食べるんだっけ。

たくさんの胡椒で「インペパータ」

エントリーナンバー1「インペパータ・ディ・コッツェ Impepata di cozze」

ナポリの伝統料理。ムール貝のインペパータ。

インペパータは「ぺーぺ pepe =コショウ」をきかせたっていう意味で、「コッツェ cozze」はムール貝のこと。だから、この料理は「ムール貝の黒コショウ風味」。

ムール貝を鍋に入れて、貝から出てくる煮汁で蒸したら、たっぷりの黒コショウをふるだけの、超シンプルなレシピ。

オイルとかニンニクですら必要なし。新鮮なムール貝と、ひきたての黒コショウがあれば、それでいい!

しみわたるような潮の香りを、黒コショウがピリッと引きしめてくれる。欲しかったら、イタパセとレモンを添えてね。

魚介といえば…「ズッパ」

続いても、典型的なナポリの一皿「ズッパ・ディ・コッツェ Zuppa di cozze」

「ズッパ zuppa」はスープのことだから、この料理は「ムール貝のスープ」。

ナポリ以外でも、ヴェネトとかリグーリアとかの、ムール貝が採れるようなイタリア中の海沿いの街の定番料理。

オリーブオイルにニンニクとイタパセの香りを移したら、ムール貝を、貝から出たエキスとトマトソースでさっと煮込めばOK。

ズッパとは言ってもスープは少なめで、ムール貝の出汁がたっぷり溶け込んだトマトソースをパンにしみ込ませて、すみずみまでふきとって食べるのがお約束。

ナポリのズッパ・ディ・コッツェの特徴は

  • 唐辛子とか、唐辛子で作った真っ赤なオイルでスパイシーに仕上げる
  • ムール貝の他に、タコとかエビとか、色んな魚介が入ることが多い

こと。

ナポリでは「聖木曜日」っていう、パスクアの3日前の木曜日に食べるのが習慣(※ pasqua =復活祭。イースターのこと )。

復活祭の前の週は、キリスト教ではイエス様を思って節制するから肉は食べなくて、ナポリの人たちはそのときにズッパ・ディ・コッツェを食べるらしい。

実はこの習慣を始めたのは、かつてのナポリの王様、フェルディナンド4世(1751~1825)で、ムール貝が大好きだった王様が、肉が食べれないこの時期にムール貝のスープを作るよう料理人に命令したっていう説がある。

フェルディナンド4世といえば、とっても庶民的で、スパゲッティや「ティエッラ・ガエータ」が大好きだった王様。(→「ティエッラとは?~スペインから伝わった?イタリア料理~」)

ムール貝は、もともとは庶民の食べもの。「早い・安い・ウマい!」料理を実現させてくれる優等生。

ナポリの王様はこの庶民料理を気に入ってよく食べていたから、ムール貝は「王の口から庶民の口へと受け継がれてきた」ナポリ料理のなかでも愛されている食材の1つなんだって。

迷ったらこれ「マリナーラ」

迷ったらこれ「マリナーラ」

またまたシンプルな料理「コッツェ・アッラ・マリナーラ Cozze alla marinara」。

「マリナーラ marinara」の意味は「船乗り風」。

海の男たちのレシピは、長い航海のあいだに、保存のきく材料を使って、ちゃちゃっと作れる簡単なもの。

ピッツァ・マリナーラも、トマトソースにニンニクとバジル、オレガノだけをのっけた、いさぎよくて美味しいピッツァ。

ムール貝の船乗り風は、鍋の中にオリーブオイルとニンニク、ムール貝をどさっと入れて炒めたら蓋をして、ムール貝の口が開いたらイタパセとレモンを放りこむだけ。

おおざっぱに作っても美味しい条件は、質のいいムール貝。

この料理は、マルケ州の、とある場所で人気のレシピ。

州都のアンコーナから少し南に行ったところにポルトノーヴォっていう海岸があって、そこにはイタリアで唯一の天然のムール貝が生息中。

その名も「モショロ・セルヴァティコ・ディ・ポルトノーヴォ Mosciolo Selvatico di Portonovo」

「モショロ Mosciolo」っていうのが、ここで採れるムール貝のこと。(※「モショリ Moscioli = 複数形」で呼ばれることが多い)

スローフード協会からも保護されていて、地元の人たちに言わせると「ポルトノーヴォのモショリは別格!」

そんな美味しいモショリ君を使った人気料理が「モショリ・アッラ・マリナーラ」。

鍋のなかに入れておけば、ムール貝が勝手に美味しくできあがってくれる。なんてうらやましい。

名産地のレシピ「タランティーナ」

ポルトノーヴォだけじゃない。ムール貝の名産地といえばプーリア州のターラント taranto。イタリアのブーツのかかとの内側にある港町。

かかととつま先のあいだに入り込んだターラント湾は昔からいい漁場で、牡蠣やムール貝の養殖で有名。

「コッツェ・アッラ・タランティーナ Cozze alla tarantina」は「ムール貝のターラント風」。

唐辛子入りのピリッと辛いトマトソースをからめたムール貝。

わずかにスパイシーなトマトソースが繊細なムール貝を心地よく包み込む。プーリア州の伝統料理。

イタリアで1番有名なムール貝の大産地、プーリアでは、料理の種類も他の州よりたくさん。

詰め物を入れて、貝殻つきのまま揚げる「コッツェ・フリッテ Cozze fritte = ムール貝のフリット」はインスタ映え間違いなし!

みんなで食べたい「グラティナーテ」

ムール貝のだいご味といえば、貝の中から出てくる海の香りが凝縮したスープ。

パンをひたして全部飲みこみたいけど、誰かとシェアするときには気をつかうもの。このご時世だし、2度づけ禁止!

でもグラティナーテなら大丈夫。

「コッツェ・グラティナーテ Cozze gratinate」は「ムール貝のパン粉焼き」

パン粉とすりおろしたチーズ、パセリにオイルとムール貝のエキスを混ぜて (レシピによっては柑橘の皮もすりおろして入れて)  半分に割ったムール貝の上にのっけてオーブンへ。

表面のパン粉がサクサクの黄金色になってきたら出来上がり。

口に運んだ瞬間、サクッとしたと思ったら、パン粉がムール貝のうま味をじわじわと吸いとってくれるから、ムール貝のぜんぶ、もれなく口のなか。

特に南イタリアで愛されてるレシピで、貧しい人でも手に入る材料で作れる、絶対おいしいやつ。

詰めこんで「リピエーノ」

「リピエーノ ripieno」は「つめ物」っていう意味。イカの中に何かつめても、ラビオリの中に何かつめても、中の具材のことはリピエーノ。

ムール貝のリピエーノは、地方によって色んな具材をつめてから、焼いたり、蒸したり、煮込んだり!

特に有名なのはリグーリア州、マルケ州、プーリア州のリピエーノ。

リグーリア州の「ミティリ・リピエーニ・アッラ・スペッツィーナ」

リグーリアではムール貝のことを「ミティリ Mitilli」って言ったり「ムスコリ Muscoli」って言ったりするらしい。

「スペッツィーナ spezzina」はリグーリア州の1番東にある「ラ・スペツィア La spezia」県のことで、ここの南にあるスペツィア湾がムール貝の養殖で有名。

「ミティリ・リピエーニ・アッラ・スペッツィーナ Mitilli ripieni alla spezziana」は「ムール貝のつめ物、ラ・スペツィア風」

つめ物がとても特徴的

  • パン粉とか牛乳に浸したパンと、卵、パセリ、ニンニク
  • リグーリア料理によく登場するマジョラムとバジリコ
  • モルタデッラ(豚の脂入りの大きいソーセージ)とプロシュット・コット(加熱してあるプロシュット)

こいつらをミンチにしてムール貝につめて、トマトソースで煮込むっていう料理。

リグーリアの人にかかれば、ムール貝も手の込んだごちそうに大変身。

マルケ州の「モショリ・アッロスト」

ふたたび登場、マルケ州の天然ムール貝モショリ君。

「アッロスト arrosto」は「ローストする」っていう意味だから「モショリ・アッロスト Moscioli arrosto」は「モショリのロースト」。

パセリ、パン粉、トマトソース、生ハムをつめてオーブンで焼く。

モショリ君の料理方法は「マリナーラ」と「アッロスト」が人気。

天然のムール貝は、他とくらべて、一段と豊かな海の香り。

地元のワインのヴェルディッキオと一緒に食べると絶品だとか。あぁ、想像するだけで…。

プーリア州の「コッツェ・リピエーネ・アル・スーゴ」

詰めこんで「リピエーノ」

プーリア州の名物料理の1つ。

「スーゴ sugo」は野菜とか果物の汁とか、肉汁とか、ソースっていう意味だけど、ただ「スーゴ」っていうとトマトソースを指すことが多いらしい。

ということで「コッツェ・リピーネ・アル・スーゴ Cozze ripiene al sugo」は「ムール貝のつめ物のトマトソース煮込み」。

牛乳にひたしたパンと、パセリ、ニンニク、卵、すりおろしたチーズで作ったつめ物をムール貝いっぱいにつめこんだら、ムール貝の煮汁を加えたトマトソースで煮込んでいく。

貝のうま味が移ったソースはパスタに絡めてプリモ・ピアットに。ムール貝は別のお皿に盛りつけてセコンド・ピアットに、っていうサーブの仕方もよくされてるみたいで、美味しくて経済的。

二兎追って二兎ともゲット。欲張らないと損しちゃうね。


今日の気分はインペパータ。ありったけの黒コショウをガツンときかせてくれたら最高。

きんきんに冷えたファランギーナ、お願いします。

SNSでもご購読できます。