マッケンロンチーニ・ディ・カンポフィローネとは?~なんて綺麗なマルケ州のパスタ~

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マッケンロンチーニ・ディ・カンポフィローネ

「限定」とか「極めて」とか、そんな単語に弱いミーハー人間の心に刺さるパスタがある。

マルケ州の限定された地域でのみ作られている極細のパスタ。

それが「天使の髪の毛」のあだ名を持つ「マッケンロンチーニ・ディ・カンポフィローネmaccheroncini di campofilone」。

こいつを知れば、きっと食べてみたくなるはず。

どんなパスタ?

マッケンロンチーニ=マカロニというと、他の地域では穴あきのショートパスタだけど、マルケ州ではロングパスタも「マッケンロンチーニ」の名前で呼ばれているらしい。

もともと、スパゲッティとかパスタとかって全部ひっくるめて「マカロニ」って呼ばれていたみたいだからその名残なのかな?

カンポフィローネはマルケ州にある、人口2000人くらいの町。中世を思わせる風景が魅力的なこの小さな町を世界的に有名にしたのがマッケンロンチーニ。

特徴的なのは、なんといってもその細さ!

厚さ1mm以下。幅0.8~1.2mm。まるで素麺みたいだけど、長さは35~60cmだっていうから、素麺よりも細長い印象。

真っ白な素麺とは対照的に、マッケンロンチーニはきれいな黄色。その理由は、水をいっさい使わずに小麦と卵だけで作るから。

使用する卵の量は、小麦粉1kg当たりなんと7~10個!

さらさらとなびく金色の細麺。天使の髪の毛って、きっとこんな感じ。

と、いうことで、マルケ州では「カッペリ・ダンジェロ cappelli d’Angelo=天使の髪」っていう風にも呼ばれているんだって。

2013年にはI.G.P.に認定されて、カンポフィローネだけで生産できるようになったから、このパスタは生産量の少ない幻のパスタ。(I.G.P.=特定の地域で決められた品質基準を満たして作られた製品であると、EUに認められた特産品)

「幻の天使の髪の毛」。一度でいいから触れてみたい。

「天使の髪の毛」が生まれた経緯

「天使の髪の毛」が生まれた経緯

卵黄と小麦で作るタヤリン

「天使の髪の毛」が生まれた経緯

エミリア・ロマーニャ州の卵入りパスタ photo by MOs810

 

 

 

 

 

 

卵を使うパスタっていうと、ピエモンテ州の白トリュフと合わせるタヤリンとか、エミリア・ロマーニャ州の手打ちパスタみたいな、ちょっとぜいたくなパスタが頭にうかぶ。

これって両方、北イタリアで生まれたパスタ。北イタリアは気候的に硬質小麦が育ちにくいから、軟質小麦でパスタを作る。

軟質小麦はたんぱく質が少ないから水だけだと生地がまとまりにくい。だから、卵を入れて生地を安定させる方法が発達したらしい。でも、卵は貴重品だったからエミリア・ロマーニャ州みたいな平野が多くて豊かな州が名産地。

で、マッケンロンチーニ・ディ・カンポフィローネはどうかっていうと、原料の大部分が硬質小麦のセモリナ粉と大量の卵。

これは珍しい。セモリナ粉は水でこねると、ねばり気と弾力が出るから卵を使わなくてもパスタの形になるらしい。そこに大量の卵を入れるなんて。

さては、マルケ州の大富豪が作らせたパスタに違いない、と思いきや、実はふつうの農家の主婦があれこれ試して生み出した庶民のパスタだったんだって。

このパスタが生まれたのは600年以上前。1400年代にはすでに美味しいパスタとして有名だったみたいだから、それよりも前のこと。

当時、乾麺は保存がしやすくて年中食べられる経済的な食べ物だと知っていたカンポフィローネの主婦たち。

彼女たちが頭を悩ませていたのは飼育していた鶏が産んだ卵を保存する方法。

今でこそ毎日のように卵を産む鶏も、品種改良されずに自然に飼育されていた当時は秋から冬にかけての産卵はお休み。

春から夏の時期に産んでくれた大事な卵を無駄にしないためには、どうやって保存したら良いのかしら?

そこで思いついたのが、乾麺に練りこんでしまいましょう、という発想。

卵をパスタで保存するとは、さすがイタリア人。ピータンにはならなかったってことか。

でも初めから今みたいなマッケンロンチーニが出来たわけじゃない。最初はふつうのサイズの卵入りパスタを作って乾燥させてみた。でも、乾燥させると空気でパスタが曲がってしまってパリン、と割れてしまう。

このままだと「割れせん」ならぬ「割れパスタ」。主婦たちはあきらめずに、次は生地をうすーく伸ばして、細かく細かくカットした。そうしたら風に吹かれても曲がることなく、かえって美しい見た目のパスタが完成。

「天使の髪の毛」は主婦たちのアイディアと、テクニックをふんだんに駆使して作ったユニークなパスタだったんだ。

マッケンロンチーニが出来るまで

マッケンロンチーニは昔ながらの作り方が受け継がれて、今でも熟練した職人や主婦たちが作りだす芸術作品。

細かい麺を作る技はもちろんのこと、適切な温度管理とじっくり時間をかけることでさらさらの金色の髪が完成する。

セモリナ粉(軟質小麦の00粉をまぜる場合も)1kg当たり7~10個の新鮮な卵を、温度を上げないように大理石のテーブルの上でねり合わせた生地を、厚さ1mm以下にのばして、0.8~1.2mmの細さにカット。

ユニークなのはこのあと、紙の上に置いて乾燥させること。36℃以上にならないように気を付けながら、24~36時間、ゆっくり時間をかけて乾燥させて、パスタを置いていた紙をそのまパタリ、と折りまげてパッケージ。

中のパスタの様子が見えるように、透明なプラスチックの窓がついた入れ物に包まれて販売される。見栄えが美しいマッケンロンチーニはパッケージも大事。

こうして出来上がったマッケンロンチーニは24カ月、保存できる。味よし、使い勝手よし。

マッケンロンチーニの評判

マッケンロンチーニが最初に登場するのは、1400年代のカンポフィローネ修道院の文献で、そのときにはすでに美味しいパスタとして知られていたらしい。

その次は1560年。トレント公会議でカンポフィローネ産の小麦と卵で作られた細いパスタ料理が提供された記録がある。

公会議って、世界中からカトリック教の司教とか関係者が集まって宗教上の取り決めをする会議のこと。このときに、マッケンロンチーニは「口のなかで溶けるほどに薄い」と、評判だったとか。

1700~1800年代の貴族の家のレシピノートにも書いてあるみたいだから、この頃にはその美味しさが知られていて、庶民料理にとどまらず貴族のテーブルに並ぶようになってたってことかな。

マルケ州出身の詩人、ジャコモレオパルディ(1798~1837。夏目漱石や三島由紀夫にも影響を与えた有名な詩人)も『お気に入りの49の料理』の中にマッケンロンチーニを挙げている。

1900年代には地元のホテルやレストランのメニューに載るようになって、他の州にも知られるようになっていった。

小さな町の中で作られて、外に出る機会の少ないマッケンロンチーニ。

それがいつしか、町を有名にして、マルケ州を代表するパスタにまでなった。

毎年、8月のはじめにはサグラ(お祭り)が開催されていて世界各地から15000人以上が集まるんだって。人口の7倍以上。ずいぶんな人気者。

合わせるソース

マッケンロンチーニは伝統的には「マルキジャーノ・ラグー marchigiano ragu=マルケ風ラグー」って呼ばれるミートソースと合わせて食べられる。

マルケ風ラグーは色んなお肉がごろごろ入ったぜいたくなミートソース。

牛肉、豚肉のひき肉、鶏肉、鶏もつ、ソーセージ、ときにはアヒル肉。牛の骨髄を使うレシピもたくさんある。クローヴやナツメグみたいなスパイスで味付けして、気長に煮込む。

細長くてはかなげに見えるマッケンロンチーニだけど、セモリナ粉と卵の麺はミートソースにも負けない存在感。

キメが粗くてソースをよく吸いあげてくれるから、ソースはたっぷり使うのがお決まり。ラグーと溶け合ったマッケンロンチーニにパルミジャーノチーズをたっぷりまぶして食べるんだって。

口の中に広がるパスタに入りこんだソースをお肉と一緒にかみしめる。かと思ったらパスタは溶けるようになくなっていく。想像するだけでよだれが出そう…。

他にも、海に近い地域では魚介のソースで食べたり、時期によっては名産の白トリュフをまぶしてゴージャスに食べたり。マルケ州には良い素材がたくさん。マッケンロンチーニにも良い選択肢がたくさん。

カッペリーニとの違いは?

日本でも手に入りやすい極細パスタといえば「カッペリーニ capellini」。

発祥はジェノヴァとか、ナポリとか、イタリア中部とか、色んな説があってはっきりしてないけど、大手パスタメーカーも生産していて太さはメーカーによってまちまち。大体0.9~1.3mmだから見た目はマッケンロンチーニとそっくり。

違いは

  • 主にセモリナ粉と水が原料
  • 冷製パスタやシンプルな調理に向いている

冷製パスタといえばカッペリーニ!夏の食卓にきりっと冷えたカッペリーニがあったら最高。

カッペリーニの語源は「カッペリ capelli=髪の毛」。あだ名は「カッペリ・ダンジェロ capelli d’Angelo=天使の髪の毛」って、あれ?マッケンロンチーニと一緒じゃない。

更にややこしいのは、メーカーによってはカッペリーニより細いパスタの製品名に「カッペリ・ダンジェロ」が使われていること。天使の取り合いだな。

マッケンロンチーニは卵をふんだんに使うから、黄金色の天使の髪の毛。

カッペリーニは卵は入らない(ことが多い)から、淡い黄色の天使の髪の毛。

どっちがいいかなんて、決められない。

まとめ

  • マッケンロンチーニはマルケ州のカンポフィローネでのみ生産される極細のロングパスタ。
  • セモリナ粉と大量の卵で作られ、水はいっさい加えられない。
  • もともとは卵を保存するためにパスタに練り込んだことから誕生した。
  • 1400年代から現代までのあいだに、その希少性と味で評判になり、今では世界中で人気。
  • 定番はマルケ風ミートソースや魚介のソース。
  • カッペリーニとの違いは作られる地域、卵の使用量、調理方法など。

成功するかどうかは工夫と努力次第。

マッケンロンチーニを見習って、たまには自分も磨いてあげないとなぁ。

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