ズッパイングレーゼとは? ~謎のネーミングの由来~

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ズッパイングレーゼとは?

ズッパイングレーゼ。

イタリアのドルチェなのに、直訳すると「英国風スープ」。

名前からしてツッコミどころ満載なのに、その見た目も、なんか様子がおかしい。

ピンク色のスポンジの正体は、インスタ映えをたくらんで生み出された今どきのケーキ?

いやいや、ズッパイングレーゼは、古い古い、歴史のあるドルチェなんだよ。

zuppa inglese ズッパ・イングレーゼ

リキュールをしみ込ませたスポンジケーキやサヴォイビスケット(savoiardo)とカスタードクリームなどを交互に重ねて作ったケーキ.

『イタリア料理用語辞典』白水社

スポンジとクリームを交互に重ねるだけのシンプルなドルチェ。

このドルチェを面白くしてるのは、カラフルな見た目と複雑な起源。

「なんで、英国風のスープなの?」

「イタリアのどこで生まれたドルチェなの?」

その答えはたくさんあって、どれも確かじゃない。そこが面白いんだってこと、知っとけば大丈夫。

ズッパって、スープのこと?

イタリア語でズッパと言えば、スープのこと。

「ズッパ・ディ・ペッシェ = 魚介類のスープ」ってイタリア料理店では日常的に飛び交う言葉のひとつかな?でも、実は日本でいう「スープ」と「ズッパ」はちょっと違って

ズッパっていうと、パンを浸して食べるスープのことで、例えば、トスカーナ州のパッパアルポモドーロとか、アクアコッタみたいなやつ。

ズッパってスープのこと?

パッパ アル ポモドーロ photo by Mike65444

ズッパってスープのこと?

アクアコッタ photo by Giorgio Minguzzi

 

 

 

 

 

 

パンと同時には食べない、水分多めのスープは「ミネストラ」って呼ばれてて「ミネストローネ」っていうと、お馴染みの野菜スープのこと。

「ズッパ zuppa」はむかーし昔のヨーロッパでは「スッパ suppa」って呼ばれてて、これって、スープに浸したパンのことだったんだって。それがいつの間にかスープの方の名前に代わっちゃったらしい。

スポンジをリキュールに浸すから「ズッパ」イングレーゼってこと。スポンジをびしゃびしゃにするドルチェは他にもティラミスとか、ババとか、仲間がいるけど、和菓子じゃあんま見ないかなぁ。

ズッパってスープのこと?

ババ photo by Éric Messel

ズッパイングレーゼに必要な3つの材料

シンプルなドルチェだけに、色んなアレンジがあるけど欠かせないのは3つの材料。

  1. パン・ディ・スパーニャ/サヴォイアルディ
  2. アルケルメス
  3. クレーマ・パスティッチェッラ

パン・ディ・スパーニャ/サヴォイアルディ

パン・ディ・スパーニャはイタリア語でスポンジ生地のこと。ジェノワ(ジェノワーズ)って呼ばれてることが多いのかな。ズッパイングレーゼはパン・ディ・スパーニャをリキュールで浸さないと始まらない。

この生地の代わりに使うと本格的なのが「サヴォイアルディ」。英語だと「レディー・フィンガー」。

ズッパイングレーゼに必要な3つの材料

サヴォイアルディ

細長い形が、可憐なレディーの指のようだから「レディー・フィンガー」。

イタリア語で「サヴォイアルディ」っていうのは、15世紀にイタリアにあった「サヴォイア公国」(今のピエモンテ州の辺り)が、フランスの王様をもてなすときに生み出されたから。

表面が細かい砂糖でおおわれていて、中は目が詰まってないから、よく水分やクリームを吸収しくれて、デザートの材料として使いやすいんだって。ティラミスの生地にも使われてる。

ね、生地がこれだったら本格的なかんじでしょ。

アルケルメス

アルキメデスじゃないよ。「アルケルメス Alkermes」。

ズッパイングレーゼの最大の特徴といえば、可愛らしいピンク色。

スポンジ生地をピンク色に染め上げてるのがこのリキュール。

イタリア特有のリキュールで、アルコール度数が21℃もあるから、こいつを使ったズッパイングレーゼは「大人のドルチェ」扱い。

16世紀頃にフィレンツェの修道院で造られていた薬用酒で、ナツメグとか、アニスとか、クローヴとか、色んなスパイスとハーブと砂糖で作られるリキュール。

このリキュールを真っ赤にする役割を持ってるのが「コチニール」っていう昆虫から抽出した赤い色素で、アラブ人によって伝えられた。語源はアラブ語の「al Quirmiz =深紅色」。

む、虫…?って思うけど、当時のメディチ家 (フィレンツェの大富豪) の宮廷で人気があったんだって。

ちなみに、日本に入ってくるアルケルメスには昆虫は使われてないらしいよ。ふふふ。

クレーマ・パスティッチェーラ

イタリア語で、カスタードクリームのこと。

ズッパイングレーゼって、店で買うよりは家庭で作ることが多いドルチェらしくて、そうするとスポンジ生地に重ねるクリームにアレンジが加わることが多い。イタリア料理の頻出ワード「家庭の数だけレシピがある」みたいな。

クリームにアーモンドを加えたり、イチゴとかチェリーとか、色んなフルーツやジャムを入れたり、メレンゲをトッピングしたり…。

本来は、カスタードクリームとか、チョコレート風味のカスタードが使われるんだって。

「英国風」のわけ

ね。どうして「英国風」なのかってことだよね。

ズッパイングレーゼの面白いところは、起源がはっきりしていないのに、誰も譲らないところ。

イタリアの人って、自分の土地の料理のうんちくとか話すのが好き。そんなイタリアが私も大好き。

何で「英国風のスープ」なのかのヒントはその起源にあるはず。ただし、どれも確かな証拠は無いっていうのがポイント。

イギリスのデザート「トライフル」について

イギリスに「トライフル Trifle」ってうデザートがあって、ズッパイングレーゼにそっくり。

「英国人風」のわけ

トライフル

トライフルは、16世紀のエリザベス1世の時代に、貴族たちの裕福な食事の残りものを再利用して作られたデザートで

やわらかい生地に甘いワインやシェリー酒をしみ込ませて、クリームや果物を重ねたもの。

それって、ほぼズッパイングレーゼじゃない?

トライフルは残りもので作る「ありあわせのお菓子」。

だから、今でも英語のトライフルって「ささいなもの」って訳されてるんだって。

英国のトライフルに似てて、スポンジをリキュールに浸すから「英国風のスープ」?

いやいや、そんな簡単には譲ってくれない人たちがいるんだ。

フィレンツェ「メディチ家」起源説

1番有名なのがこの話。

ルネサンス期 (14世紀~16世紀)のフィレンツェに、メディチ家っていう大富豪がいた。

そのメディチ家の当主が、同じトスカーナ州のシエナを訪問したときに振るまわれた「スポンジとアルケルメスと蜂蜜入りのミルクでできたお菓子」をとても気に入ってレシピを持ち帰った。

そのお菓子は「ズッパ デル ドゥーカ Zuppa del Duca =公爵のスープ」って呼ばれてて

メディチ家がお気に入りのお菓子としてお客さんに出すようになった。

そしたら、特にイギリス人に人気だったから「ズッパ・イングレーゼ」と呼ばれるようになった、という説。

他にも、フィレンツェにあったカフェのメニューに「ズッパ デル ドゥーカ」があって、イギリス人客に人気があったから「ズッパ・イングレーゼ」に改名した。っていう説もある。

これが、トスカーナの人たちがズッパイングレーゼは自分たちの郷土料理だって主張する理由みたい。

エミリア・ロマーニャ「エステ家」起源説

こちらもルネサンス期。出てくるのは、エミリア・ロマーニャ州の大富豪だったエステ家。

エステ家とイギリス王室は当時、外交や商業で頻繁にやりとりがあって

イギリスで「トライフル」に出会って大ファンになったエステ家の外交官が、帰ってきてから宮廷の料理人に再現させた、っていう説。

その時に、宮廷にあったアルケルメスが使われて、鮮やかなピンク色と香りが加わった結果、本来の「トライフル」より洗練されたドルチェが完成。

イギリスでは庶民のデザートだった「トライフル」だけど

「ズッパ・イングレーゼ」という名前に改名して、貴族のお菓子として定着させた。

これが、エミリア・ロマーニャの人たちがズッパイングレーゼは自分たちの郷土料理だって主張する理由。

それとも、イギリス人のために作られた?

メディチ家やエステ家によって作られたっていう説が有名だけど、ちらほら聞こえてくるのが、イタリアに住んでいたイギリス人が関わってたんじゃない?ってはなし。

根拠のひとつは、当初ズッパイングレーゼはスポンジにラム酒を浸して作られていて

ラム酒はイギリスの船乗りに飲まれてた典型的なリキュール。しかも作り方がトライフルに似てるから、っていうのと…

他には、イタリアにはイギリス人が多く住んでいたから、料理人たちがイギリスのサービスで喜んでもらおうと、トライフルに似せて作った、とか

フィレンツェのイギリス人家政婦が、余っていたビスケットを甘いワインでやわらかくしてカスタードとチョコレートのプリンを上に置くことを思いついた、とか。

どれもありそうで、どれもなさそうなはなし。

まとめ

  • 「ズッパイングレーゼ」はリキュールをしみ込ませたスポンジ生地にカスタードを重ねて作るイタリアのドルチェ。
  • 必要な材料は「パン・ディ・スパーニャ/サヴォイアルディ」「アルケルメス」「クレーマ・パスティッチェーラ」。
  • イギリスの「トライフル」によく似ている。
  • 起源は確かな証拠は無いけど、ルネサンス期のメディチ家(トスカーナ)とエステ家(エミリア・ロマーニャ州)によるという説が有名。

ふつうに考えたら、トライフルが伝わってイタリア料理化した、で良くない?

でも、何世紀にもさかのぼってイタリア料理だって主張する、そんな郷土愛全開なのがイタリア料理のいいところ。

エミリアの人が「ズッパ・イングレーゼ?何でズッパ・エミリアーナじゃないんだ!」とか言ってくれること、希望。

動画でもお話してます。

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